信託を活用した不動産取引
1.不動産取引と信託
昨今、不動産ファンドなどの大規模な取引では、不動産の譲渡の際には信託を活用するケースが多くなっております。
不動産の信託受益権を利用した取引は、
・不動産を信託契約等により信託財産とする。
・信託受益権を売買の対象物とする。
ことが基本となりますが、取引は以下のような態様に分かれると思われます。
①既存の信託受益権を売却し、買主は信託受益権を取得し、信託契約を継続する。
(売買前;信託受益権 売買時;信託受益権 売買後;信託受益権)
②既存の信託受益権を売却し、買主は信託受益権を取得と同時に信託契約を解約する。
(売買前;信託受益権 売買時;信託受益権 売買後;現物不動産)
③現物の不動産を売主が信託設定して、買主は売主の信託受益権を購入する。
(売買前;現物不動産 売買時;信託受益権 売買後;信託受益権)
④既存の信託契約を解除して現物の不動産化し、受益者又は受託者が売主となり、買主は現物不動産を取得する(通常の不動産売買契約)
(売買前;信託受益権 売買時;現物不動産 売買後;現物不動産)
なお、信託受益権は金融商品の取り扱いとなるため、その売買にあたっては、現物の不動産売買とは異なり「金融商品取引法」に基づく重要事項の説明や信託受益権の内容の説明及び書面の交付が必要となります。
2.信託受益権の売買と現物不動産の売買の違い
①商品対象;信託受益権→金融商品(みなし有価証券)/現物不動産→現物不動産そのもの
②関係法令;信託受益権→金融商品取引法・金融商品の販売等に関する法律など/現物不動産→宅地建物取引業法など
③許 認 可;信託受益権→第2種金融商品取引業/現物不動産→宅地建物取引業
④不動産取得税;信託受益権→非課税/現物不動産→課税
⑤登録免許税;信託受益権→課税/現物不動産→課税
⑥印 紙 税;信託受益権→課税(200円)/現物不動産→課税(売買代金にスライド)
3.信託受益権の売買の税金メリット
信託受益権の売買するメリットして大きくあげられるのは、税金です。
オフィスビルや物流倉庫などの大型物件ほど、不動産取得税・登録免許税・印紙税のコストは大きな負担となります。
信託受益権の売買であれば、不動産取得税がかからないことだけでなく、登録免許税や印紙税もかなり低減されます。
※税金ではないのですが、受託者(信託銀行等)に信託報酬を払わなければならないという点が逆にデメリットとしてはあります。
■不動産登記申請の際の登録免許税
①信託設定時
・所有権移転登記→非課税(登録免許税法7条1項1号)
・信託設定登記→対象不動産の固定資産税評価額の0.4%(登録免許税法の別表1・1・(10)・イ)
ただし,土地の所有権の信託については、時限特例により0.3%(租税特別措置法72条)
②受益権売買時
・受益権売買の時には受益者が変更になります。
この変更登記の登録免許税は、不動産(土地・建物)1個につき1000円です(登録免許税法の別表1・1・(14))。
■不動産を信託受益権化した際の不動産取得税
①信託設定時
信託による所有権移転は形式的なものです。そこで、法律上、非課税とされています(地方税法73条の7第3号)。
②受益権売買時
受益権は不動産ではありません。不動産の取得には該当しないので、不動産取得税の課税対象ではありません。
ちなみに、信託受益権を現物の不動産に戻す(信託を解約する)際には、通常通りの不動産取得税、登録免許税、印紙税がかかります。
つまり、メリットとしてあげた税金は、免除されているわけではなく繰り延べがされている訳です。
その為、信託受益権の売買は、現物の不動産売買と比較して、保有し続ける為の売買ではなく、中・長期で売却を前提に、流通税などの取得費用を抑えることによって利回りを重視する売買で選ばれる取引形態となります。
信託を活用した不動産取引についてさらに詳しくは藤間司法書士法人までお気軽にお問い合せ下さい。